2013年6月9日から16日まで、インド洋に浮かぶ島国モーリシャス共和国のグラン・ベで国際フランコフォニー学会(CIÉF)第27回世界大会が開かれた。AJEQ会員からは、小畑精和、鳥羽美鈴、廣松勲、小倉和子の4名が参加した。例年の大会よりは小規模だったとはいえ、40カ国から200名以上の研究者たちが集まり、7日間にわたって50以上のセッションが開催された。 モーリシャス島といえば、18世紀、この島が「フランス島」と呼ばれていた時代にベルナルダン・ド・サンピエールによって書かれた『ポールとヴィルジニー』を思い起こす人も少なくないだろう。また19世紀には、20歳のボードレールがインド行きを試みるが、船が途中で嵐に遭ったため、すでにイギリス領となっていたこの島に立ち寄ったあとフランスに引き返してしまった、というエピソードも思い出される。さらに、モーリシャスはなんといっても、ノーベル賞作家ル・クレジオのゆかりの地である(彼は今もフランスとモーリシャスの二重国籍を有している)。島は1968年に独立国となるが、イギリス領だった時代もイギリス人はあまり住みつかなかったらしく、今でも公用語の英語より、クレオール語やフランス語のほうが流暢な住民が多い。 27回目にして初めて南半球で開催された今回の大会のメインテーマは、 « Karay de l'inter/transculturel : heurts et bonheurs »。Karayとはモーリシャス・クレオール語で「鋳物の鍋」を意味し、「るつぼ」の比喩として用いられるそうだ。移民文学、フランス語圏各地域の文学・文化、女性作家、映画、紀行文学、言語学、フランス語教育など、この学会の定番メニューに加えて、今回は土地柄ル・クレジオやインターカルチュラリズムに関するセッションが散見され、モーリシャス、マダガスカル、レユニオンなどインド洋の作家や芸術家たちを交えたラウンド・テーブルなども多かった。 南半球は冬とはいえ、滞在期間中は初夏のようなさわやかさだった。サトウキビ畑が広がる島は、東京都くらいの面積しかないが、歴史的経緯もあってじつに多様な人種の人々が多様な言語と宗教・文化を維持しながら穏やかに暮らしているという印象を受けた。古くから交易の中継地だった島では、今回のメインテーマにもあるように、人々は日々インター/トランスカルチュラリズムを実践して暮らしている。それはときに衝突(heurts)も引き起こすが、幸福(bonheurs)をもたらすものでもあることを経験的に知っているようだった。 当初参加予定だった長谷川秀樹はやむを得ぬ事情により不参加となったが、その他4名のAJEQ会員が参加したセッションと発表タイトルは以下の通り。ケベック在住の研究者や韓国ケベック学会との共催セッションも多く、学術交流を深めることができた。詳細は学会誌5号の「海外学会報告」をごらんいただきたい。
6月9日 « Enseigner la Francophonie : innovations, technologie, stratégies I» --Misuzu TOBA, Université Kwansei-Gakuin, « Le français dans la diversité : réfléchir sur la francophonie » 6月12日 « L’Insularité dans la littérature » --Yoshikazu OBATA, Université Meiji, « Imagination insulaire de la littérature québécoise » 6月14日 « Théorie interculturelles et transculturelles » --Isao HIROMATSU, Société japonaise pour la promotion de la science, « Émile Ollivier : transmission de la mémoire et mémoire de la transmission » 同 « Mémoire culturelle et approches comparatives » --Kazuko OGURA, Université Rikkyo « Dérive et mémoire chez Dany Laferrière et Matsuo Bashô » 大会プログラムはこちら。 http://cief.org/congres/2013/programmeprovisoire.pdf (小畑精和・鳥羽美鈴・廣松勲・小倉和子)