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日本ケベック学会(日本でのケベック・フランコフォニー等に関する学術研究・芸術文化交流を振興・推進する学会)の公式ブログ

韓国ケベック学会参加メンバーの報告

韓国ケベック学会報告と写真(12/5)

韓国ケベック学会報告 
加納由起子/山出裕子

 2009年10月31日にコリア大学にて開催された第九回韓国ケベック学会「Traduction, Cinéma et Gabrielle Roy」(翻訳、映画、ガブリエル・ロワ)に、日本ケベック学会理事加納由起子、山出裕子が出席し、研究発表を行った。学会は午後一時半に始まり、六時に終わった。コーヒーブレイクをはさんで、六人の発表とそれぞれについてのコメンテーターとの討論があり、充実した内容だった。周到に準備された広い会場にはケベック文学の翻訳者、研究者、学生たちが四十人ほど見られ、リラックスした雰囲気ながら、皆最初から最後まで熱心に発表と討論に聞き入り、ノートをとっていた。

 同学会は、韓国ケベック学会の会長であるDae-Kyun HAN教授による、挨拶をかねたケベック韻文文学の翻訳に関する講演で始まった。その後、二つのセッションに分かれた研究発表が行われたが、第一セッションは、翻訳学、女性文学、シネマについての研究発表、第二セッションは、ガブリエル・ロワについての研究発表であった。

 第一セッションでは、まずはじめに、加納理事による「ケベック女性文学の日本語訳について。その経緯、特徴、概観」と題された発表があった。加納理事は、ケベック文学における女性を主人公とした作品の先駆けとして、1932年に男性作家であるルイ・エモンの『マリア・シャプドレーヌ』が初邦訳されていることに触れ、その後、2002年に出版された『椿』までのケベック女性文学の日本における翻訳の経緯を紹介した。加納理事は七十年あまりの歴史を三つの時期に分け、それぞれの時期の翻訳状況の特徴を述べた。ケベック文学において女性を主人公とした作品の翻訳の歴史は、まず『マリア・シャプドレーヌ』が唯一の典拠であった長い時代の後、女性作家によって書かれた女性文学作品が現れ始めたことについて紹介した。さらに、1970年代にアメリカとパリの出版動向に影響を受けたマリー・クレール・ブレとアンヌ・エベールの翻訳があったことについて触れた。そして1990年代には、英米のフェミニズムと同調した翻訳理論に刺激を受けた、英系カナダ文学の研究者によるブロサールの翻訳があった。同時にポスト・コロニアルと移民文学への関心がそこに加わるようになった。加納理事は、日本におけるケベック文学の紹介は、女性を主人公とした男性作家作品に始まり、その後、三度にわたって女性作家の発見を通して行われたと述べた。
 コメンテーターからは、1990年代の英系カナダ文学研究者の翻訳実践の意義について、質問を受けた。またデキュン教授から、何故『マリア・シャプドレーヌ』のみが長く唯一のケベック文学の代表であったのか、という質問を受けた。最初の質問については、「脱構築主義翻訳理論のケーススタディという立場を超えて、カナダ産フランス語文学の独自性が認められたという意義がある」と答え、次の質問には「マリア・シャプドレーヌは当時未曾有の国際的ベストセラーであったために、このように早い時期に二度翻訳されるに至ったものと思われる。また、1990年代までケベック文学は日本には言わば存在しないも等しかったので、当該小説の成功とケベックの日本における表象の間には、大きな関係はないと思われる」と答えた。また、ハングル語で、『マリア・シャプドレーヌ』および、『アガクック』の初翻訳が進行中であることを教えられた。

 続いて、中国の広東外国語大学のYirong Cheng教授による中国におけるケベックの韻文文学についての熱心な発表があった。チェン教授は中国におけるケベック詩の導入の歴史が浅いことを述べ、これからのグローバル社会にとっての詩文学の一般的必要性を述べた。

 続いて、山出理事の発表として「シェリー・サイモンの作品に見られる翻訳性とフェミニズム」と題する発表が行われた。この発表では、まず近年の翻訳学の傾向について紹介し、特にケベックにおける翻訳論という観点で、バイリンガリズムとともに、女性翻訳家の役割に注目している、シェリー・サイモンの翻訳理論作品の特徴について紹介した。
 まず、サイモンの代表的な著書であるGender in Translationに見られるフェミニスト翻訳理論の特徴について論じ、具体的な例として、ニコール・ブラッサールの作品であるL’amèr とフェミニスト翻訳家であるバーバラ・ゴダールによる同著書の英訳All Our Mothersを比較し、フェミニスト翻訳から生まれる創造性について論じた。また、サイモンの最近の著作であるTranslating Montrealにみられる、モントリオールの多言語、複数民族の文化から生まれる翻訳性の特徴について論じた。特にサイモンは、この著書において、英語とフランス語の間の言語的緊張感に注目しており、そのような緊張感から生まれるモントリオール文化の特徴が、サイモンの翻訳論のよりどころとなっていることを指摘した。また、サイモンは、この文化的特徴を、翻訳論を通して積極的に評価しており、モントリオール文化の混血性を翻訳することが、その文化の特徴であるとしていることを強調した。またその混血性は、サイモンの著作であるHybridité culturelleでも詳しく論じられており、これはケベックのバイリンガル翻訳家であり評論家でもある、サイモン自身のアイデンティティのよりどころにもなっているとの見解を示した。

 さらに、このセッションの最後の発表として、韓国の清洲大学のEun-Jin SIM教授によるケベックの映画と女性に関する発表が行われた。

 第二セッションは、2009年10月03日に行われた「日本ケベック学会2009年度全国大会」の際に、韓国より招聘された二人の研究者の発表のために当てられたものであった。ここでは、Sungkyounkwan 大学のJi-Soon LEE教授による、ロワの作品と韓国文学を比較した比較文学論の発表、Kyung Hee 大学のJung-Sook OH教授による、ロワの自伝文学についての発表が、先日、日本で行われた発表と、ほぼ同じ形で行われた。
(文責 山出裕子)

韓国ケベック学会の写真
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(写真提供:Kano)
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